今から20年以上前の話。ロシアのある地方都市からの出張を終え、東京駅に着いた私は、雨脚が強く、また荷物も重たかったので、自宅までタクシーを使って帰ることにしました。タクシー乗り場の行列に並び、ある一台のタクシーに乗車しました。夜21時をまわった頃だったかと思います。今なら、目をつむって寝たふりをして、“話しかけないでオーラ”を醸し出したことでしょう。ただ、当時は30代前半。まだ若く、そして何より出張を終えた開放感に満たされていて、話しかけてきたタクシーの運転手さんのあらゆる質問によどみなく答えておりました。
恐らく、出張先の街の様子の話などしたのでしょう。今となっては、あまりよく覚えていません。ただ、運転手さんの口調がとてもなめらかで軽快だったのを覚えています。私はと言えば、滅多にタクシーに乗ることもないため、一体今どこを走っているのかもわからず、またどしゃぶりの雨の中、窓にたたく雨の滴を見るほかありませんでしたから、運転手さんとの会話は途切れることはありませんでした。その中で、私は兄の話をしたことだけはよく覚えているのです。父から暴力を受けたり、家出したりと、なかなかハードな人生を歩んでいる兄について、タクシーの運転手さんにいつの間にか語っていたのでした。初対面の人なのに・・・。今考えると、不思議な気がします。とても、聞き上手で共感力の強い方でした。
当時はまだカーナビというものをつけているタクシーはなく、運転手さんに私の住所と目印となりそうな建物を伝えて自宅に向かっていました。暗がりの中、なじみの建物が見えて来て、そろそろ到着かなぁと思った頃、「宇宙人が存在すると思いますか?」と尋ねられました。突然の話題でしたが、日頃から思っていることを口にしました。「えー、もちろんいると思いますよ。地球にだけ生物がいると考える方が不自然な気がしますから」「そうですよねー」と嬉しそうな声が返ってきました。自宅マンションの前に到着し、精算をすませ、降りようとする私に、運転手さんが「シートポケットにあるチケットを持って行ってください。そして是非いらしてください」とおっしゃったのです。ずっとおしゃべりをしていたので気付かなかったのですが、座席のシートポケットに「宇宙人の○○○(※思い出せません)」と書いたチケットが多数入っていたのです。1枚いただいて、外に出ようとした時、初めて、運転手さんが振り返りました。私は思わず「きゃー」と小さな声で叫び、タクシーから降り、通りに飛び出しました。まっすぐ前を向いて話していた時は、そんなに小さな男性とは思わなかったのです。座席にすっぽりはまるぐらいの身長で、顔は人間の顔だったのですが、何かちょっと変わった顔つきに見えたのでした。
この時の経験は私の記憶から消えることはありませんでしたが、この話を伝えるには、伝える相手をかなり選びました。信じてもらえそうにない人には、絶対に口にしませんでした。主人と結婚したばかりの頃、この話をしたとき、主人の第一声は「うらやましい~!僕も宇宙人に会いたかったよ~」でした。このとき、私は、こういう感性の人と結婚できて良かったと思ったものです。
あともう一人、ロシアのモスクワで、当時「ロシアの声」(全ロシア国営ラジオ・テレビ放送会社、現在の「ラジオ・スプートニク」)で翻訳のお手伝いをしていた時のチーフアナウンサーの日向寺康雄さん(2024年1月5日にお亡くなりになられました)にこの話をしたことがあります。すると、日向寺さんは「そうそう、宇宙人って、タクシーの運転手さんのような方に紛れて地球に住んでるんですよね~。是非、ラジオで話してくださいよ~」との素敵なリアクションを頂きました。日向寺さんに私の秘密を打ち明けて良かったなぁ~と思ったものです。
宇宙人らしき人と出会って、あれから20年以上が経ちました。あの時、タクシーから飛び出さず、運転手さんに笑顔で「是非、“宇宙人の○○○”に参加させていただきます!」と握手でもしていたら、私は秋田の木村秋則さんみたく宇宙人からメッセージをいただけたかも、と少しばかり後悔しています。
とかなんとか言って、ただの宇宙人好きの運転手さんだったりして・・・(^_^;)!!


